『なんで早く報告しなかったんだ!』
『お前がもっと早く俺に言っていれば簡単に対処できたんだぞ!』
『お前はなんで基本的な報連相もできないんだ!』
日本の会社であれば、どこにいても耳に入りそうなフレーズだ。
ありふれた小さい失敗が上司に報告されず、いざプロジェクトが最終段階に入ったところで『ん? 何かがおかしいぞ』と上司が異変に気づき、『実は・・・』と消え入りそうな声で部下が告白する。
当然、失敗したままプロジェクトが進行しているので、そのリカバリーは大変だ。
プロジェクトリーダーである上司が怒声を上げたくなるのは、むしろ当然のことだろう。
ではなぜ、そんなことが起こるのか。
ズバリ言おう。
それは貴方が、部下にとって『ミスを報告するとストレスを与えてくるだけの上司』になってしまっているからだ。
人間の脳は、必ず○○を後回しにする悪癖がある。
まず、とりわけ社会に出て間もない若手社員は、まだ“責任を追及される形”で叱責を受けることに慣れていない。
よって、たとえその叱責が『これは教育の一環だ』とか、『昔は怒鳴られるくらい当たり前だった』と理由づけをされたところで、若い彼等が感じるストレスが大きい事に違いはないのだ。
その上、その叱責が同期や後輩がいる前で行われたのであれば、それは“羞恥”という形で大きなストレスとなるだろう。
ネットやSNSにおいて、いまだ匿名性の高い現代、観衆がいる中の叱責は、貴方の世代から考えられないほど強烈なストレスを、彼等に与えることになる。
以上を踏まえて、ここから肝心だ。
こういったストレスというのは、人間の脳が“構造上必ず持っている悪癖”を強く刺激する。
それは、“ストレスを感じる事を後回しにするほど、脳が快楽を得てしまう”という悪癖だ。
貴方にも、身に覚えがないだろうか。
学生時代。“夏休みの宿題をついつい後回しにしてしまった”、そんな記憶が。
恐ろしいことに、これは“人間の脳が生まれ待った機能”が引き起こす、ありふれた現象なのである。
もともと人間の脳は、ストレスから解放された瞬間、快楽を得る構造になっているのだ。
だから貴方の脳は自然と、『まだ夏休みが始まったばかりだし、宿題は一週間後あたりから取り掛かればいいだろう』と理由をつけて、“ストレスから解放されようとする”。
実際にそうならなくても、“必ずそのような考えが脳内に発生する”。
この場合、長期の休みで楽しいことを考えている中で存在するストレス原因(大量の宿題)なので、それを一旦放棄し、貯めていたゲームやマンガに飛びつくことは、さぞ“大きな快楽”を脳に与えたことだろう。
さて、これを社会人の話に戻そう。
部下は、ミスをすれば上司に叱責されると思っている。
中でも、ストレスの高い叱責を受け続けた部下の脳は、自然とこう考えるようになるのだ。
『どうせ怒られるのは変わらないのだから、後で報告して、まとめて怒られた方がマシだよね・・・』
もう一度言うが、人間の脳は必ずストレス原因を後回しにする性質がある。
たとえこの文章と同じように自覚していなくても、必ず似たような言い訳を脳内で生成し、上司への報告をためらうのだ。
だから貴方は部下から報告されない
貴方が部下からミスを報告されないのは、部下にとって貴方が『ミスを報告するとストレスを与えてくるので、相手にするのをできるだけ後回しにしたい上司』だと思われているからである。
・ミスを報告するとキレて怒鳴りだす。
・ネチネチと何十分も持論を垂れ流して、若手をその場に拘束する。
・人前で叱責し、周囲からの評価を貶め、恥をかかせる。
タイプを上げれば、それこそキリがないだろう。
ただ、解決方法はある。
それはズバリ、貴方の叱責からストレスの要因を取り除くことだ。
もしも同じ失敗を繰り返す部下にどうしても叱責が必要ならば、以下のようにしよう。
どうしても部下を叱らないといけない時のポイント
①まずは部下と一対一の場を設けよう
②ミスを指摘する際は、具体的な表現をしよう
③ミスの修正が完了したら、それを部下が確信できるようにサインを送ろう
①まずは部下と一対一の場を設けるようにしよう。
人前での叱責は、特に今の若い世代には強い“恥のストレス”を与えてしまう。
ストレスというものは貴方の言葉を理解する力を半減させるので、本当に貴方の思いを理解して欲しいのならば、観衆のいる場所での叱責は回避しよう。
②いざミスを指摘する際は、『○○が間違っていているから、○○になるように直せ』と貴方の考える手法を明確に伝えよう。
感情だけの叱責や曖昧な指示は、経験の浅い部下にとって『理解不能な内容』となり、”不安のストレス”を感じさせてしまう。
不安のストレスは判断力を鈍らせ、仮に部下の中で正解が導かれたとしても、『本当にこれで合っているのかな……?』となって、せっかくの正解をふいにしてしまうことにもなりかねない。
『そのやり方で合ってんだから、さっさとやれよ!!』
こんなことを言った経験ある人なら、必ず指示のどこかに曖昧な表現が隠れているはずだ。
絶対に探し出して、スタートからゴールまで具体性を持たせよう。
③最後に、部下がミスを修正して報告してきたら、嘘でもいいので部下が見ている目の前で部下の報告書を見ながら『ヨシ!』とつぶやくようにしよう。
修正を終えて貴方に報告した部下だが、いまだ『本当にこのやり方があっていたのかな・・・』と不安でいっぱいだ。
だから貴方は、嘘でも満足した声を出し、彼の仕事が間違っていなかったことを“確信”させよう。
そうやって初めて、部下はこの件のストレスから解放され、次の仕事に取り掛かれるのだ。
――以上、ほんとうに簡単なスリーステップを紹介したが、これを継続していくことで次第に“ミスの報告”が部下にとって意味のあるものとなり、未報告が減っていくだろう。
そうすれば、最初に話したような貴方のストレスだって減るはずだ。
元来人間は(一部のアスリートを除けば)ストレスが小さい方がパフォーマンスが高まりやすい生物である。
もしも貴方が、貴方の思う様に業績を上げたいのであれば、まず貴方の手の届く環境を全力でストレスフリーにすることが、その一番の近道になることだろう。